こころの健康 (コロナ禍編)
更新日:2022年1月24日
コロナ禍でのこころの健康
精神科嘱託医 大塚芳克医師
新型コロナウイルスの流行が続き、みなさんの日常生活も以前とずいぶん変化があることでしょう。
普段の生活の中ではもちろん、コロナ禍でのストレスに対し、どのように対応し、こころを保っていけば良いのでしょうか。
コロナ禍において「ストレス」、「睡眠」、「睡眠障碍」、「気持ちの整理」についてを鎌ケ谷市精神保健嘱託医の大塚先生に教えていただきます!全4回のシリーズでお伝えしていきます。
週に1回更新していきます!
目次
今回は、「ストレス」について、なかなか難しいこころの切り替えを、ぜひ学んでみましょう。
ストレス、何とも漠然とした曖昧な言葉です。鉄道愛好家にとっては胸躍る踏切の警報音も、これから漸く眠れるかと思っている人には、残酷な響きを持って襲いかかります。
漠然としたものを考えるとき、視覚化してみると、少し具体的なものとしてイメージ出来ようになります。イメージするだけで、時にはストレスだったものが遠ざかっていくようにも感じられることもあります。ここでは膨らませた風船をイメージしてみましょう。あなたはどんな風船をイメージされましたか?
パンパンに膨らんだ風船でしょうか、少し空気の抜けた風船ですか。其処にもあなたの持っているエネルギーの状態が現われているかもしれません。
次に、この風船を押してみましょう。何を使って押すか、考えてみて下さい。指先でオソルオソル押しますか?それとも爪楊枝で、ゆっくり押すか、素早く押し当てるか。風船の反応はそれによって変わります。ストレスを測る為にはこの様に様々な条件を考えながら評価する必要があります。
何をストレスと感じるかは、かなりの個体差、状況・状態によって変わることが分かります。あるときはストレス、あるときは感動を感じるきっかけにもなります。
コロナ禍にあって、いつ抜け出せるとも分からないストレスにさらされる毎日ですが、強制収容所に閉じ込められたユダヤの人や、ハンセン氏病を理由に長期間収容されていた人たちが生き残る糧として有効だったものがあります。それは、人と自分の尊厳と信頼、其処から生まれる希望と生きがいです。絶望しないことです。何処にそれがあるのか、と絶望した人は云います。学術会議の委員に推薦され、指名を拒まれた加藤陽子氏は、「これに異議を唱える人たちがいることに信をおく」とある紙面で語っておられました。鰯の頭も信心から等と云いますが、混沌とする中から信頼の置けるもの、大切なものを探すのも一つの才覚と思います。旧ソビエトの強制収容所を告発したスルジェニツィンの、短編で「イワン・デニソヴィッチの1日」はその一つの生き方を描いています。文庫本にありますからご一読されるのも一興かと思います。パンデミックを扱ったアルベール・カミュの「ペスト」は、私が医師になったきっかけの一つです。人それぞれが、できる事をやることの大切さをうたっていたと思います。
風船は破らないで下さい。こんな時は、できないことを無理してやろうとするより、たまには茶葉がホッコリと開く様を眺めながら、茶をすするのも良いでしょう。
シリーズ1に続き今回は、「睡眠について」をお届けいたします。
みなさん、よく眠れた!!と感じる朝はどれくらいありますか?
心理的なストレス、疲れすぎてよく眠れないなど誰もが経験のあるモヤモヤとした夜の時間。
快眠を求めるときに、どのようなことが必要なのでしょうか。
今回も大塚先生に教えていただきましょう。
静岡で、自殺予防対策として、「お父さん、眠れていますか?キャンペーン」というのが行われたことがありました。睡眠はその1日を締めくくり、明日への準備を行う、大切なプロセスです。この睡眠がおびやかされることがどれだけのものか、子育てをしていて最大の試練は啼く子に起こされる事であったり、遅刻するよと布団をはがされるときであったり、自分で仕掛けた目覚し時計を壁にぶつけたり。心地よい眠りは、人の三大快楽(快食・快眠・快便)の一つです。
心地よい眠りは、初日の出を拝む感動に通ずる想いで1日の始まりを迎えさせてくれます。そんな想いはいつのことやら、日々目覚めてしまったことを悔やんでみたり、疲れが残り、痛む身体をほぐしながら、床の横にへたり込み、息を整え、今日の頑張りを自らに言い聞かせながら立ち上がろうとする朝を迎えている方も多いのではないでしょうか。そのような状況に暮らしながら、気持ちよく眠りに就くことが出来たらと願うことはもっともなことです。ではその為にどう努めたら良いのか、巷で喧伝される科学的な方法で、手っ取り早く眠れる薬を使えば良いのか、良薬である御神酒をたしなめば良いのか。否、そんなものに頼らずに眠れるようになりたい、何でも良いから直ぐに寝かせてくれれば良いんだ、睡眠に困ったとき人は何とかしようと考え始めます。
子供時代、遊び、動き回り、うるさいと怒鳴られながら、気付くと寝てしまい、やりそびれたと後悔したことは、誰にも経験したことのあることと思います。眠りは意図しないときに訪れるものです。身体の赴くままに、我が身を委ねることに長けた人は眠りを捉えることが巧いのかもしれません。しかし、そんな悠長なことを許してくれる時代では益々なくなり、手際の良さばかりを求められ、息の詰まる想いをしばしばさせられます。いちいちそれに答えようとすれば、解決していない事柄がアフターファイヴに山積されていることに気付かされます。身も心も休ませ、明日を迎える準備をしないとならないときに、これぞストレスというものです。
忘れることは特効薬ですが、これはツケを明日に持ち越すだけで、明日は貌(かたち)を変えたストレスが襲ってきます。真面目で几帳面な人こそこの悪循環に陥りやすく、酒の誘惑に囚われたりします。断酒の集まりでは、酒に自らは無力であることを自覚しろと言われますが、そこで学ぶ前に、日々の生活の中で、自身の限界にぶち当たり、それを突き抜けることを要求されることがありうる時代状況なのだと云うことを自覚した方が良いと、パワハラや過労自殺など労災問題を考えると思います。睡眠障碍を前にすると、共通する問題としては、現代は腑に落ちない状態で夜を迎えざるを得ないことが余りに多い時代なのかもしれないということです。物々交換に始まった経済活動の良さを、技術の進歩が生かし切れていないからかもしれません。
シリーズ2に続き、今回はシリーズ3「睡眠障碍について」をお送りいたします!
シリーズ2では、『現代は腑に落ちない状態で夜を迎えざるを得ないことが余りに多い時代なのかもしれない』また、それを自覚しておくことが大切ではないかと大塚先生に教えていただきました。
今回は、腑に落ちないのは思考の混乱が引き起こされている場合があること、そんな状態からの抜け出し方について教えてくださいました!先生お薦めの本についても知ることができます。
腑に落ちない理由には、課題の困難さだけでなく、気持ちの収まらなさが大いに絡んでいることが多いようです。また、疲れが高じると思考の混乱が次に惹き起こされ、混乱に拍車をかける場合があります。そうなると脳神経の緊張は極度に高まり、もはや自身の力では手に負えなくなります。このようなときは気分安定薬、抗うつ薬、精神安定剤も必要になる場合もありますが、詳しくは別の機会に致します。
腑に落ちない状態からの抜け出し方。
今の時代は、引き受けたことはその人がやり抜くという自己責任を知らず知らずのうちに引き受けさせようと云う方向に流されています。自分を守る為には、一寸立ち止って、果たしてそうかと振り返る必要があります。(参考図書 奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業 荻野弘之(著)、かおり&ゆかり(著・イラスト)ダイヤモンド社)
その為には以下のような問題整理が役に立つことがあります。
- 出来たことと、出来ていないと気になること書き出す
- それに対して、思っていることを書き出す。
- どうしようと考えるか、思いつくものを書き出す。
- 今できること、明日できる事を分ける。
- 自分でできる事と他者の協力が必要なことを分ける。
- 抱え込みに気付き、それを止める。(自分の立場・限界を認識することになる)
【備考】床の中で考えず、起きて、書き出しましょう。今やらなくても良ければ明日やるように、明日の私にメモを残しておきましょう。
3回にわたって『コロナ禍でのこころの健康』についてお伝えしたシリーズが今回最終回となります。
コロナ禍であることや、忙しく余裕をもった生活が送りにくい現代において、ストレスを緩和し質の良い睡眠をとるにはどうしたらよいか?
最終回であるシリーズ4では、「気持ちの整理について」大塚先生に教えていただきましょう!
眠りと共に、人は夢を見ます。1時間半くらいの一眠りの間に一度、身体は動かず、眼球だけ激しく左右に動く時間があります。レム睡眠といわれる
時期ですが、そこで何を脳はしているのか、その瞬間に起こされると夢を報告することが出来ます。起き抜けには徐々に身体が動くようになり目覚めてい
きます。このときも夢を見ていることが多いようです。悪夢など激しい夢は夢の中で目覚めようという意思が働き、眠りが中断されることがあります。
その夢の役割は何か、諸説ありますが、診療場面で聴く夢は、どうも日中の処理できなかった事柄が夢の中で再編集されているように思います。我慢し
ていた怒りが夢の中で再現され、言い返す事が出来なく夢の中でも苦しかったとかいうことから、その問題の解決を考えるきっかけとなります。
腑に落ちないこと、納得行かないことには、私たちの脳は眠っている間に辻褄を合わせようと頑張ってくれているようです。繰り返し見る、気になる
夢は、自身で解決できない事柄を抱えていることが背景にありそうですから、相談にのってくれそうな、信頼できる人を探して、聴いてもらうと良いでしょう。
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健康福祉部 健康増進課 成人保健係
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ファクス:047-445-8261