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第35回 史料整理の現場から(15)いつの時代もボードゲームで大盛り上がり!?

更新日:2025年5月8日

令和5年度に寄贈いただき、ここにも何度か登場している徳田(とくだ)家の史料の中から、今回は「双六(すごろく)」をご紹介します。
奈良時代からあったといわれる双六は、明治から昭和時代には元旦の新聞付録となることがよくありました。テーマは様々で、今回の双六は「日英博覧会見物(にちえいはくらんかいけんぶつ)世界一周双六」という題名が付いています。この博覧会は明治35年(1902年)に締結した日英同盟を記念し、同43年5月から約半年間イギリスで開催されたもので、これを祝して同年1月1日付の東京朝日新聞(現「朝日新聞」)の付録として発行されました。
双六の始点(ふりだし)の新橋から、当時の海外への玄関口である横浜港から乗船して、太平洋を越えハワイを経てサンフランシスコへ上陸し、陸路で北米大陸を横断してニューヨークから再び船で海を越えて、イギリスに渡り、日英同盟博覧会を見物します。その後航路でヨーロッパに入ると、列車で陸路をパリから一気にローマまで南下し、再び北上してオーストリアなどを経由しモスクワへ着きます。そこから東へ向け、シベリア(表記は「サイベリヤ」)鉄道に乗ってバイカル湖を越えウラジオストクまで横断します。最後は再び航路で日本の敦賀(つるが)(福井県)に到着(注釈1)して「上(あが)り」という世界一周の旅でした。
まず目を惹(ひ)くのが外国の地名を漢字で表記していることです。「巴里(パリ)」「倫敦(ロンドン)」「羅馬(ローマ)」はご存知の方もあると思いますが「布哇(ハワイ)」「瑞西(スイス)」「紐育(ニューヨーク)」などは、今ではほとんど使われず馴染みがないですね。でもパソコンでこれらの地名を打って変換するとちゃんと出てきます(注釈2)。

世界一周双六(明治時代)の写真
写真 日英博覧会見物 世界一周双六(明治43年(1910)1月1日 東京朝日新聞付録)

双六(すごろく)の遊び方は今のボードゲームとほぼ同じですが、サイコロの目の数で進むのではなく、出た目(数)に応じてすすむ(もどる)コマが指定されています。例えば「伯林(ベルリン)」(ドイツ)エリアには「一三六 モスコー(モスクワ 莫斯科)、四 サイベリヤ鉄道、二五 ローマ」とあります。これはサイコロで1、3、6のいずれかが出れば「モスクワまで進む」、4が出れば「シベリア鉄道まで進む」、2、5が出れば「ローマまで戻る」となります。現在のボードゲームの代表ともいえる『人生ゲーム』(注釈3)と比べて設定コマの数の多さの違いはありますが、「戻る」のコマ数が多く、なかなか「上り」にならないのではとハラハラです。
題名の右側に「楚人冠(そじんかん)・藪埜椋十(やぶのむくじゅう)(注釈4)立案」、左側は「中村不折(なかむらふせつ)作画・前田黙鳳(まえだもくほう)題字」とあります。立案者二人は東京朝日新聞の記者で、そのうちの一人杉村楚人冠(すぎむらそじかん)(本名廣太郎(こうたろう))は、在日アメリカ公使館の通訳を経て明治36年(1903年)に東京朝日新聞に入社、特派員として欧米に渡り新聞記事を多数執筆しています。海外旅行がまだまだ一般的でなかった明治期に、双六のテーマを世界一周旅行としたこともうなずけます。なお楚人冠(そじんかん)は大正12年(1923年)の関東大震災の翌年、別荘としていた我孫子(あびこ)町(現我孫子市)の邸宅に移住しました。現在我孫子市に開設されている「杉村楚人冠(すぎむらそじんかん)記念館」はこの邸宅の母屋をそのまま利用したものです。また紙面に各国の絵を描いた中村不折は明治から昭和期に活躍した洋画家で、夏目漱石『吾輩は猫である』の挿絵画家としても知られていました。前田黙鳳(まえだもくほう)は明治から大正初期の書家です。作画、立案者などの人選を見るとその力の入れ様が見て取れます。たかが付録、されど付録なのです。
(注釈1)敦賀港は、明治35年(1902年)にはロシアのウラジオストックとの間に定期船が開設されています。
(注釈2)文中に取り上げなかった地名表記としては、サンフランシスコ(桑港)、ワシントン(華盛頓)、ウィーン(維納 オーストリア)、オランダ(和蘭)、ウラジオストック(浦塩斯徳 ロシア)があります。
(注釈3)登録商標のゲームおもちゃ名称
(注釈4)渋川玄耳(しぶかわげんじ)というペンネームもある(本名 渋川柳次郎)。裁判官(陸軍法務官)を経て、明治40年(1907年)に東京朝日新聞に入社。
(注釈5)この日英博覧会見物世界一周双六については「早稲田大学図書館 古典籍総合データベース」などでもデータ公開がされています。
外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます。世界一周双六 日英博覧会見物 中村不折作画(waseda.ac.jp)(外部サイト)(早稲田大学図書館引用確認済み)
(注釈6)本記事は、『鎌ケ谷市郷土資料館だより』70号(令和7年2月1日発行)に掲載した「史料整理の現場から」19の内容に加筆し、再編集したものです。

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