第28回　史料整理の現場から（8）鎌ケ谷に青い目の人形がやってきた!! アメリカ人形歓迎音楽会プログラム

　前回に引き続き史料の再整理の中で見つかった史料を紹介します。今回は、アメリカ人形歓迎音楽会のプログラムです。謄写版(とうしゃばん)（注釈1）で印刷された史料は、刊行物の間に折りたたまれ、わずかな染みがついてはいるものの、良好な状態で発見されました。
　昭和2年（1927年）にアメリカ人形が日本に送られてきたことをご存じの方も多いかと思います。日本での教師経験を持つシドニー・ルイス・ギューリックや渋沢栄一らの尽力によって、アメリカから横浜港に到着した約1万2千体の人形の歓迎式が、同年3月3日に日本青年館で行われ、全国各地へ送られていきます。千葉県に到着した人形は4月23日の歓迎会を経て、県から指定された県下214の学校へ配布されました。東葛飾郡では鎌ケ谷尋常高等小学校（以下「鎌小」）をはじめ、船橋幼稚園など30の小学校・幼稚園へ人形が「お嫁入り」しました。
　この史料に年代は記されていませんが、同年4月に鎌小へ入学した方の聞き取り調査の記録では「青い目の人形が来たのは入学したばかりの1年生だった」とあり、また同じく人形を受け取った市川の小学校では5月5日に歓迎会が行われていることから、鎌小でも5月中にはお披露目の歓迎音楽会が開かれたと思われます。当時の鎌小は、本校（第一校舎）の他に、第一分校（第二校舎）・第二分校（第三校舎）・第三分校（第四校舎）と校舎が4ヶ所に分かれており、各分校からも児童が集まりました。人形を受け取った学校では歓迎会を開いて多くの人びとに紹介するようにという文部省からの通達もあり、鎌小の児童だけでなく学校外からもたくさんの人が集まったといいます。

　プログラムを見ていきましょう。「開会の辞」「閉会の辞」の間に27個の演目（プログラムには「作業」と表記）があり、尋常科・高等科の児童・処女会が出演しています。演目の内訳は「合唱」（14）・「独唱」（4）・「遊戯」（8）・「劇」（1）で構成されており、校舎ごと（第二から第四）に学年別で出演しています。例えば「11、合唱　青い眼の人形　二ノ三四　女　石井外一九」という演目は「11番目　合唱　青い眼の人形　第二校舎（第一分校）の三、四年生女子石井さん外19名」となります。なお「青い目の人形」は、実はこれより前の大正10年（1921年）に発表されていた有名な童謡です（作詞 野口雨情・作曲 本居長世）。この合唱以外にも「独唱　人形を迎へる(歌)」や「遊ギ(戯)　青い目の人形」があり、珍しかったアメリカ人形を精一杯歓待する気持ちが伝わってきます。
　鎌小に青い目の人形が来たということ、歓迎会が開かれたということはこれまでも聞き取り調査などでわかっていましたが、人形も現存せず、具体的な史料は残されていませんでした。今回の発見によって、どのような歓迎会だったのかわかってきました。たった1点の史料から、約100年前の出来事を明らかに出来ることが、この仕事の醍醐味かもしれません。

（注釈1）ロウを塗った薄い紙に、尖った鉄のペンで文字などを書いてロウを削り、そこから染み出るインクで印刷する方法。ガリ版印刷とも言った。
（注釈2）プログラムは当時の様子を知る史料としてそのまま掲載しました。なお、「三．閉会の辞」は原本の文字も半分欠けています。また、文中のかぎカッコ（「 」）は当時の表記をそのまま引用したものです。
（注釈3）本記事は、『鎌ケ谷市郷土資料館だより』62号（令和5年2月15日発行）に掲載した「史料整理の現場から」11の内容を再編集したものです。
（注釈4）本記事で取り上げた「青い目の人形」については、公益財団法人渋沢栄一記念財団ホームページ内『渋沢史料館』のページにも関連記事が写真とともに掲載されていますので、参考にご紹介します。
史料館だより 29｜渋沢史料館｜公益財団法人 渋沢栄一記念財団 （外部サイト）