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第30回 史料整理の現場から(10)日記に書かれた 「約110年前の飛行機飛来の記録」

更新日:2024年6月21日

令和4年度に寄贈いただいた史料の中に、大正9年(1920年)から昭和8年(1933年)に鎌ケ谷村役場の書記などを務めた、津川(つがわ)(きざし)(以下、「津川」と略記)の日記があります。津川は、明治35年(1902年)から昭和19年(1944年)にかけて、日記をつけていました。このうち昭和11年(1936年)までの日記は、『昨夢今幻』(注釈1)と名付け、「一」から「三」と「別記」の計4冊に分けて、後年に編集・浄書(じょうしょ)したものがありました。主要な出来事が詳細に記されており、当時の市域周辺の歴史を知る上でも貴重な記録です。
今回ご紹介するのは、日本に動力飛行機が導入されて間もない大正2年(1913年)、一般にはまだ珍しかった飛行機について書かれた記事です。当時、八柱(やはしら)尋常高等小学校(現松戸市立東部小学校)の校長だった津川は、挿秧(そうおう)休暇(きゅうか)(田植え休み)のため、1人日直中だった校内で、午前9時頃に2機の飛行機が松戸町矢切(やぎり)方面上空を飛び、国府台(こうのだい)練兵場(れんぺいじょう)(原文では「練兵所」、現市川市)に着陸するのを目撃しました。明治43年(1910年)頃初めて飛行機を見て2度目とあり、その1度目は、国内で初飛行が行われた、代々木練兵場(現代々木公園〈東京都渋谷区〉)での演習時(明治43年12月)のことと思われます。
日記にある国府台練兵場は、後の(あずま)練兵場(現在の市川市中国分(なかこくぶん)一帯。戦後「東台(あすまだい)」の名称で跡地を開拓)のことで、当時周辺に駐屯(ちゅうとん)していた多くの陸軍砲兵(りくぐんほうへい)などの部隊が、教練や演習などを行っていました。日記からは、練兵場内の平坦地を、飛行機が離着陸する場所として使用していたことが推測されます。なお、東練兵場では昭和2年に、葛飾(かつしか)村(現船橋市)の青年団・在郷(ざいごう)軍人会の合同軍事演習が、飛行機も参加して実施されています。また、現在の中国分3、5丁目あたりに、戦時中から戦後にかけてコンクリート製の滑走路があったという話も伝わっています。

津川象の日記(画像)
津川象の日記(大正2年(1913)6月18日)

日記が書かれた大正2年6月18日から21日にかけては、明治44年に開設された所沢陸軍飛行場(現埼玉県所沢市)の「第1期交通術(こうつうじゅつ)修業員(しゅうぎょういん)航空機(こうくうき)操縦(そうじゅう)(しょうこう)卒業(そつぎょう)飛行(ひこう)」で、所沢―国府台間(約76キロメートル)の飛行が行われていました。国内最初の卒業飛行で、操縦将校3名及び臨時操縦将校2名が卒業し、搭乗機(とうじょうき)臨時軍用気球(りんじぐんようききゅう)研究会(陸・海軍が設置した気球と飛行機の軍事利用研究会)製作の会式(かいしき)(注釈2)2号・3号・4号機でした。津川はこの時の飛行で、2機が着陸する瞬間を垣間(かいま)見たものと思われます。
練兵場内が飛行場として使用されたのは、近隣では習志野原(ならしのはら)の陸軍練兵場(現八千代市・船橋市・習志野市の一部)も同様で、翌大正3年の卒業飛行は、所沢から習志野原間で行われています。旧小金牧(こがねまき)及びその周辺に設置された軍用地に隣接する地域では、飛行機を目にする機会はそれほど少なくなかったのかもしれません。

(注釈1)津川の造語のため読みは不明。同氏が書き記した資料には、このように漢字を独自に組み合わせたと思われる表現が見られることがあります。
(注釈2)国内で最初に飛行機を製作した臨時軍用気球研究会による飛行機「臨時軍用気球研究会式○号機」の略。この会のメンバーでもあり、飛行機を設計し、国内で初めて飛行機で空を飛んだ徳川好敏(とくがわよしとし)大尉の名から、当時は「徳川式」と呼ばれました。
(注釈3)本記事は、『鎌ケ谷市郷土資料館だより』65号(令和5年11月15日発行)に掲載した「史料整理の現場から」14の内容を再編集したものです。

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