第11回 関東大震災(97年前の相模トラフ巨大地震)の史料(1)
更新日:2021年12月17日
本シリーズ第6回から第8回で、大正時代に流行した「スペイン風邪」の史料について紹介しました。実は、15年と短い大正は自然災害が頻発した時代でした。それらの中でも、最も人々の記憶に残ったものが、大正12年(1923)9月1日に起こった関東大震災でした。これは相模トラフを震源とするマグニチュード7.9の海溝型巨大地震で、現在の東京都と神奈川・千葉両県で最大震度7(激震)を記録しました。日本史上で特記されるのは、その被害の大きさでした。1府(東京)・9県で、死者・行方不明者は105,000人以上、家屋の全・半壊212,000戸以上、同焼失212,000戸以上とされています(諸井孝文・武村雅之「関東地震(1923年9月1日)による被害要因別死者数の推定」日本地震工学会論文集、第4巻、第4号、2004年 による)。
さて、鎌ケ谷市域(当時は東葛飾郡鎌ケ谷村)は、震源地からやや遠かったため、建物被害や人的被害はほとんどなかったと報告されています。しかし、当日の午後になると、空が暗くなるとともに強い西風が吹き、東京の方角の空が真っ赤になっているのが見えたという伝承が残されています。また、その後2、3日の間は、焼け焦げた書類や紙片が飛んできたといいます。さらに、しばしば余震があったことが記録されています。
他方、当時の鎌ケ谷村の人たちは、被災者に対する積極的な援助を行いました。避難してきた人たちに対して、青年団員などが麦湯・甘藷(サツマイモ)などをふるまいました。さらに、村内で衣類479点、甘藷85俵、雑品(シャツ、股引、帽子、足袋、外套など)50点や現金などの義捐金品を集め、東葛飾郡役所を通じて被災者へ送りました。
関東大震災から1年が経過した大正13年9月1日、鎌ケ谷村一同で、表面に「震災記念」と刻まれた石碑を建てました。これが、現在、市役所本庁舎前の植え込みの中にある震災記念碑です。もともと東武鉄道鎌ケ谷駅近くの道野辺地区にありましたが、後に鎌ケ谷中学校付近に移設されました。そして、最終的に現在地へ移されました(なお、この2回の移設の年代と経緯がわかる記録が伝わっていません。ご存じの方はご教示いただければ幸いです)。
裏面には、元八柱村立八柱尋常小学(現松戸市立東部小学校)校長で当時鎌ケ谷村役場書記であった津川象の選文書による漢文調の碑文が刻まれています。なお、この碑は市内の石造物などを収録した『鎌ケ谷市史』資料編2(金石文)に収録されていますが、碑文を意訳すると、次のとおりになります。
(震災記念碑 碑文)
大正12年9月1日は、わが国民にこの上なく大きな悲惨と非常に深い哀しみを与え、永久に忘れることができない未曾有の災難の日であった。この日の午前11時58分、突然京浜地方を中心に湘南地方および房総地方の一部で大激震が起こり、一瞬のうちにこれらの地方の建築物はことごとく崩壊してしまった。続いて各所の倒壊した家屋から大火災が起こり、猛火の炎は連日連夜にわたり夜空を焦がした。そしてついに、京浜一帯は見渡す限りの焼け野原と化してしまった。その結果、百億円余の財貨が灰燼となり、32万戸余の家屋が焼失し、10万余の死体があちこちに重なり合い、まるで亡くなった人の霊がもの悲しく啼くのが聞こえるようだった。数十万人の負傷者は路上で悩みもだえ、わずかに身一つで九死に一生を得た者も、親を失い、子と別れ、空腹やのどの渇きが刻々と迫り、路頭をさまよいながら騒ぎ立てる様子は、あたかも八大地獄が目の前に展開しているようだった。見るもの聞くものすべての恐ろしさがはだ肌に粟粒を生じさせ、悲しみにひしがれ、血の涙がひとしれず落ちるのを禁じ得ない。わが鎌ケ谷村は、この震災の圏内にあったが、その震度が比較的緩和されたため、住居や倉庫などの損害はきわめて少なく、人畜の死傷がなかったのは実に最大の幸運というべきことである。今ここにその1周年にあたり、有志が相談して1基の記念碑を建設し、この災害で悲惨な死をとげた人々の霊を弔慰するとともに、後世の子孫が天地の異変を敬い恐れるべきことを知り、自ら気をつけて謹むための資料としてほしいと願う。(以上碑文より)
震災記念碑
なお、碑文の下部には、当時の村内有力者24名が発起人として名を連ねています。
関東大震災は、江戸時代の元禄16年(1703)に起こった「元禄地震」から220年ぶりの相模トラフ巨大地震でした。そして、それから約100年近くが経過し、関東地方では首都直下地震とともに、専門家により、近い将来の勃発への警鐘が鳴らされています。
市役所にお出での際には、石碑に刻まれた教訓をご覧いただき、先人達がこの碑に込めた思いを感じていただけたらと思います。
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