第16回 民間信仰の史料(1) 初富三峯講(みつみねこう)の規約
更新日:2021年12月17日
日本では、古くから既成の宗教の枠外もしくはそれと習合する形で展開してきた信仰が広く存在しています。これを民俗学では「民間信仰」などとよんでいます。民間信仰は、主として聞き取りによって調査されますが、特に近世から近・現代にかけて記された講(信仰によって結成された集団)については、歴史資料(史料)によってその内容を知ることができる場合があります。市内にも民間信仰に関わる貴重な史料が伝わっていますので、それを逐次紹介していきたいと思います。
令和3年1月、市内の一つの講がその歴史を閉じました。北初富の人たちによって結成されていた三峯講です。三峯講は、現在の埼玉県秩父市に所在する三峯神社へ参拝することを目的として結成された講です。三峯神社は、秩父神社(秩父市)・宝登山神社(長瀞町)とともに秩父三社の一つです。中世以降、日光修験系の道場となり、また、古来より山中に生息した狼(ニホンオオカミ)が社の眷属神(神の使い)「大口真神」として崇められました。近世には「お犬様」とよばれる眷属信仰が各地に広まり、数多くの講(三峯講)が組織されました。市域でも、鎌ケ谷と初富で講が確認されています。特に、盗賊除けと火伏せ(火防)にご利益があると信仰され、今でも同社の御札が貼られている旧家を見かけることがあります。
初富で三峯講が結成されたのは昭和10年(1935年)のことでした。それがわかるのは、講の人たちの伝承に加え、「三峯神社講社代参帳」という史料が保存されていて、その冒頭に、この年4月17日、初富の3名が代参したことが記録されているからです。したがって約85年間にわたって継続していたことを知ることができるのです。なお、代参というのは、講員が多数でしたので、全員がいっしょに参拝することが困難な場合、順番に数名ずつが参拝することをいい、社寺参拝を目的とした講で広く採用されていました。なおその時の参拝者は、通常、(1)くじ引きで決定、(2)家順で事前に決定、のどちらかによりました。
また、代参帳のほかに、昭和から平成にかけての「講員名簿」や「当番申送簿」などといった史料が複数伝わっています。そして、それらの冒頭に講の規約が記載されている場合があります。写真で掲載したのは、今から約55年前の昭和40年(1965年)4月に作成された「三峯講々員名簿」の冒頭のものです。ここには、講の名称として「三峯神社北初富講」と記されています。実は一時期、初富地区の三峯講は、北初富と南初富で別々に行われていた時期があり、その状況を示すものです。なお、南の三峯講はその後廃絶し、北の三峯講のみが直近まで続けられていました。さて、規約は次の通りの5か条が記載されています(漢数字をアラビア数字に改め、適宜句読点を付しました)。
1 本講は、年3回(1・4・9(月曜日))に開講す。
2 本講は、毎回金200円の講金を募り、代参者の旅費に充つる。
3 講金は、毎回其ノ当番1名に預け置く。
4 代参者は、毎年7名とす。
5 毎回、菜代100円と白米3合、当番が集めるものとす。
初富三峯講規約(昭和40年(1965年)4月)
同講々員名簿(左同年の表紙)
まず、1には、代参以外の行事として、毎年1月・4月・9月に講員一同が集まる行事が行われていたことが記されています。この行事は「オコモリ」とよばれ、通常それぞれの月の19日に豊作稲荷神社境内の北初富第3自治会館で行われました。その内容は、境内にある三峯神社の祠の前で拝みをあげ、さらに会館内に「三峯神社」と記された掛け軸をかけて再び拝みをあげ、その後一同で飲食するというものでした。2は、この時点でオコモリごとに各自から200円の講金を集め、それを代参者の旅費に充当するという内容です。3は、集めた講金を毎回の当番1名に預けておくという内容です。なお、当番は輪番制で3名ずつつと定め、オコモリの準備や片付けなどを行いました。4は、代参者の人数を7名とするという規定です。なお、代参者は戦前は3名でしたが、戦後7名となりました。そして、講員数の減少にともない、平成10年代から減少していき、直近では再び3名となっていました。代参者は1月のオコモリの時にくじによって選ばれ、原則は4月6日に参拝するものとされていました。5は、オコモリ当日の飲食などの費用(菜代(おかず代))を徴収し、あわせて米を3合ずつ持ち寄るという内容です。
ここに記された内容は、いろいろな信仰行事で広くみられたものでした。ただ、口頭で伝承されている場合も多く、このように成文化されている(文字で書かれて残されている)ものは貴重です。
初富三峯講のオコモリ(平成30年(2018年)4月19日)
さて、講に加入していた人数は、開講当時は30名でスタートし、昭和36年(1961年)には36名を数えていましたが、その後次第に減少していき、令和元年(2019年)には17名となっていました。また、参加者の高齢化も進んだことから、講の維持が困難となり、講を閉じることとなりました。そしてこのたび、大事に保存してきた様々な歴史・民俗資料を後世まで伝えてほしいという講の方々からのご依頼により、上記の史料など合計33点を市教育委員会へご寄贈いただき、郷土資料館で保管することとなりました。なお、これらの一部は、平成30年度に開催した第21回ミニ展示【地区の歴史と文化財(7)初富[後期]「初富の歴史と民俗を伝える文化財 初富開墾150周年記念」】で借用し、展示させていただいていたものです。
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